読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる


スポンサーリンク


日本語文化論<文献と方言について>

文献と方言については次の4つのパターンがある。まず一つ目は、方言と文献が一致する場合で、方言の分布から推定される語の新古関係が、文献における出現順序と一致する。二つ目は方言の分布からは分からない事が文献から判明する場合。三つ目として挙げられるのが、文献からは分からない事が方言の分布から判明する場合で、最後の四つ目が方言と文献が矛盾する場合、すなわち方言の分布から推定した語の新古関係が、文献における出現順序と逆になる場合である。

 

 

次に上に挙げた文献と方言の4つのパターンの具体例を挙げていく。まず一つ目である、方言と文献が一致する「地震」の例だが、方言では「地震」を「ナイ」と言っているのは、主に九州、沖縄、東北にも点々とあり、関東などの中央部分にはみられない。関東に多いのは「ジシン」であるため、「ナイ」が古く、「ジシン」が新しいABA分布と言える。万葉集や古事記などの文献では、上代「ナイ」正確には「ナウィ」は地震の意味ではなく、「大地」や「地面」を意味していた。「なうぃゆる」が「大地が揺れる」という事から「地震」の意味となったのだ。そのため文献でも「ナイ」が古く、「ジシン」が新しい事が分かり、方言と文献が一致している。その他の例として挙げられるのが、「蜻蛉」で、方言では、「アケズ」などのアケズ類が九州、沖縄、東北などに見られ、関東には「トンボ」が多いABA分布である。文献では、「アケズ」は「アキヅ」として万葉集にあり、「トンボ」は平安時代の文献より見られるようになったため、方言と文献が一致していると言える。「中指」や「親指」も同様に、方言と文献が一致する例で、「中指」において、方言では「ナカユビ」が古く、「タカタカユビ」が新しい。上代文献では、「中指」の事を「ナカノオヨビ」と言い、「指」は「および」という言葉で表されていた。「ナカノオヨビ」が「ナカユビ」に変化したと考えられる。「タカタカユビ」については、室町時代まで見られないため、文献においても、「ナカユビ」が古く、「タカタカユビ」が新しいと言える。

 

二つ目は、方言の分布からは分からない事が文献から判明する場合である。例えば「薬指」を指す「クスシユビ」という言葉は文献にはあるが、方言には見られない。そもそも「指」は上代「および」という表現で表されており、「ナナシノオヨビ」が「クスシノユビ」に、「クスシノオヨビ」が「クスリユビ」、それから「ベニユビ」に変化したのである。その他には「蜻蛉」の例で、文献においては上代「アキズ」を意味していたものが、平安時代には「カゲロフ」と言われているが、このような言葉は方言には見られない。「つむじ風」にも同じ事が言え、方言では、「つむじ風」を東北北部においては「シマキ」、南部は「マキカゼ」と言い、西日本の宮崎では「シマキ」、沖縄では「マキカゼ」と言っており、どちらが古い言葉なのか不明である。しかし、文献において上代「マキカゼ」という言葉は見られず、これは庶民が使っていた言葉であり、文献には規則性のある言葉しか載らない事による。また古い言葉を使用する和歌でも「シマキ」という言葉が使われているため、方言ではどちらが古いか分からなかったが、文献によって「シマキ」の方が古いという事が判明した。

 

 三つ目は文献からは分からない事が方言の分布から判明する例で、先ほど同様、「つむじ風」の例をとって説明しよう。「つむじ風」は、東北の南部や、沖縄などで「マキカゼ」と言われているにも関わらず、文献に「マキカゼ」という言葉は一切見られない。ではなぜ、方言には存在するのかというと、「マキカゼ」という言葉を使っていたのが庶民であったからだ。二つ目の例ですでに説明してしまったが、文献には規則性のある言葉しか載らず、庶民が使っていたような言葉は載らないのである。そのため文献には表れていない言葉が方言分布では見られたのである。これこそまさに、文献からは分からない事が、方言の分布から判明する例である。

 

最後に四つ目は、方言の分布から推定した語の新古関係が、文献における出現順序と逆になる場合である。「顔」は東北、九州では「ツラ」、関東では「カオ」と言われ、「ツラ」が古く、「カオ」が新しいと言えるが、文献においては全く逆で、「カオ」が古く、「ツラ」が新しい、方言と文献が矛盾する例である。これを解決したのが小林たけしさんの『顔の語史』で、文献において、上代貴族は「顔」の事を「オモテ」と言い、平安時代には「カオ」、鎌倉になると「カオ」であるとか「ツラ」といっていた。一方庶民はというと、「オモテ」、「ツラ」、「カオ」という順に変化していき、庶民の言葉は文献ではなく、方言として残るため、方言と文献で矛盾が表れたのだと考えられる。このように階層によって言葉が異なる事を位相的二重構造と言う。以上が文献と方言における4つのパターンの例である。

広告を非表示にする
このホームページに関するお問合せは下記へお願いします。
Eメール:philosophy_diary@yahoo.co.jp